研究概要 |
本年度前期では、昨年度の基礎研究をさらに推し進めて、ロックの知覚表象説的契機と、直接実在論的契機との関係を再検討し、観念本来の自然主義的論理空間の重層構造を確認した。その成果の一部は、Yasuhiko Tomida, Inquiries into Locke's Theory of Ideas(Hildesheim, Zurich, & New York : Georg Olms Verlag, 2001)に反映されている。直接実在論的な日常的物体観が、自然学的理由から新たな粒子仮説的物体観に取って代わられることと連動して、物そのもの、観念、心からなる三項関係的な知覚表象説の枠組が成立するが、その新たな枠組の成立後も、直接実在論的視点が生き続けているというのが、再確認された事柄の核心をなす。 以上の研究に基づき、本年度後期には、特に、ロックの狭義の「実体」観念の意味を考察した。ロックが実体の複合観念に認められるとした不明瞭な実体観念については、ロック学者の間でも、それに関して、今日まで議論が続いている。それを論理的基体として解釈するか、それとも、物質的基体として解釈するか。後期には、この問題に焦点を当て、バークリの観念の論理空間を解明する手掛かりを得た。『人間知性論』に見られる狭義の実体に関するロックの言説を詳細に検討すれば、それが、論理的性格のものであることは明らかであり、それゆえに、それはオックスフォードのマイケル・エアーズが言うような、欠如態における心像ではなく、概念的なものと理解しなければならない。この結果が、バークリ解釈にどのような光を投じるかが、次年度の研究の一つの核となる。
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