本年度前期では、前年度の研究を承けて、バークリが「物質的実体」をどのように理解しているかについて、考察を進めた。バークリの物質否定論は、ロックの三項関係的枠組みを念頭に置くなら、物そのもの/観念/心という三項のうちの、「物そのもの」を否定することを意味する。しかし、ジョナサン・ベネットとマイケル・エアーズの論争などが示すように、バークリが否定する物質(ないし物質的実体)を、ロックの物そのものと同一視してよいかどうかに関しては、詳細な検討が必要である。そこで、この点を念頭に置きつつ、バークリの「実体」観念を明らかにすることが、本年度前期の研究の主眼となった。その際、特に注意を払ったのは、ロックの狭義における実体観念(いわゆる「純粋な実体一般の観念」)を物の「実在的本質」と同一視すべきとするロック解釈の妥当性、および、ロックの実体観念とバークリのそれとの相同性であった。そして、諸種の角度からの考察の結果、ロックの肯定する物そのものを、バークリの否定する物質と同一視することが基本的に妥当であること、また、ロックの狭義における実体観念を物の実在的本質と同一視することの根拠が十全ではないことを、確認した。 本年度後期では、前年度のロック研究と上記のバークリ研究とをつき合わせて、「実体」の問題について一定の理解を得るべく努めた。また、それとともに、本研究のベースとなっている自然主義の考え方を深めるため、現代の代表的自然主義者であるW.V.O.クワインの認識論的見解について、考察・検討した。
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