1 本年度はとりわけソクラティク・ダイアローグ(以下SD)という哲学的グループ対話方法論とそこから出てくる哲学の理論的・実践的可能性の検討に重点をおいた。2001年2月にドイツ・ヴュルツブルクでのSDに参加し、このおりの意見交換をもとに同年9月のドイツ・ソクラティク哲学協会代表者2名を交えた国際コロキウムを主催した。そのさい先端医療技術をめぐる公共的意思決定プロセス(参加型テクノロジーアセスメント=PTA)にSDを応用する彼らの研究が欧州連合(EU)で採用されたこと、市民のコミュニケーション能力向上をめざしてSDと調停(裁判外紛争処理の1形態)とを統合できる可能性があること、他方SDを導入して医師・患者間のコミュニケーションを改善する試みもなされているがマクロな次元でいくつか問題が指摘できることなどが明らかになった。また、PTAにSDを応用する研究を日本でも実施する方向で検討することが合意された。 2 単著『臨床的理性批判』を公刊し、その中でアフォーダンス理論や生態心理学を援用しつつ、上空飛翔的ではなくマテリアルの次元にしっかり足をつけた理性を記述するよう試みた。本研究課題の言葉でいえば現場(看護・介護を含む)の「具体性」を担保としつつもその具体性になずみ閉じこもることを避け、適宜抽象化・普遍化の作業(ヘーゲル哲学が1つの範を示した)を行い、しかもその作業の限界をつねに自覚している理性の立場を明らかしようと試みた。 3 京都学派の哲学とくに田辺元の絶対媒介の論理に取り組み、この論理が現代の差異の論理に先駆しながらも、その実践概念の抽象性のゆえに真の現場性を持ち得ないことを確かめた。 4 看護理論の哲学的整備に取り組み、既成の哲学理論を演演繹的に適用するのではなく、看護実践の具体性を生かしたインタラクティヴな理論形成をめざすべきであることを確認した。
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