1.中心的な成果としては、ソクラティク・ダイアローグ(以下SD)という哲学的グループ対話方法論がもつ哲学的可能性が、理論的側面でも実践的側面でも明らかになった。SDは参加者の具体的・日常的経験にあくまで定位しつつ、それを各自が明晰に定式化し、また他の参加者の発言に耳を傾け、問いかけることによって、経験されたものの普遍的な意味を共同で取り出す。進行役(ファシリテーター)が媒介するその過程で、経験したものの当初の私秘性が公共的な方向へと開かれ、変容していく。発祥地ドイツとは文化的背景を異にする我が国でSDを有効に実践していくためには、進行役を中心としてどのような工夫が必要であるかを、本研究ではいくつかの点で明らかにした。また、参加型テクノロジーアセスメントにSDを応用する研究がEUで進められていることが報告され、日本でも同種の研究を実施する方向でEUのSD関係者と意見交換を行った。 2.アフォーダンス理論や生態心理学を援用しつつ、上空飛翔的ではなくマテリアルの次元にしっかり足をつけた理性について検討し、その特徴を明らかにした。すなわちそのような理性とは、現場(看護・介護を含む)の具体性を担保としつつも、その具体性になずみ閉じこもることを避け、適宜抽象化・普遍化の作業を行い、しかもその作業の限界をつねに自覚しているのである。 3.ヘーゲル哲学とのかかわりでは、京都学派の哲学、とくに田辺元の「絶対媒介の論理」に取り組み、この論理が現代の差異の論理に先駆しながらも、その実践概念の抽象性・思弁性のゆえに真の現場性をもちえないことを確かめた。
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