1、痛苦の現場(町工場/老人医療施設/学校等)に出かけ、現代社会における苦しみの実状を調査した。存在の肯定思想が痛苦の時空変容に根本的寄与をもたらすという、逆説的事実を確認した。また大阪や仙台などの全国の臨床哲学研究者と連絡をとり、関連する様々な情報の交換と収集を行った。 2、近隣の研究者や大学院生と臨床哲学研究会を結成し、「癒し」「ニヒリズム」「コミュニケーション」「ポイエーシス」「外部性」等をテーマに毎週、議論や読書会をするとともに、科研費で購入したコンピュータや外付けHDDやソフトなどをフルに駆使し年報『臨床哲学研究』を編集し、第1号〜第3号を刊行した(第4号も既に編集中)。 3、新規購入した高速コンピューターをつかい、臨床医療や過労死や教育荒廃に関する膨大な情報を収集し、そのデータベース化を試みた。ハイデガー及びその周辺の哲学サイトと連絡をとり、未公刊文書をはじめとした現代存在論関係のデータを収集した。 4、以上のフィールドワーク、情報収集、研究会討議等をベースにして、瞬間存在をめぐる仏教思想の知見(刹那滅思想)との比較考量をこころみ、単著『ハイデガー=存在神秘の哲学』(講談社)を刊行。その出版が機縁となり、他分野(演劇界、宗教界、工芸界)からの接触や招待等があり、本研究成果を各地で公開(講演)することになった。現在、上記書籍で構築した「存在神秘論」を、臨床現場に具体的に適用する技法をめぐっての応用篇として、『瞬間を生きる技法』(筑摩書房来年度刊行予定)の執筆を加速させている途上である。
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