研究計画では本年度、計画している著作の二つの章にあたる論文を準備し作成することになっていた。二つの章とは、第五章「決意-一四○年代末・五○年代初頭のガダマー」第六章「『真理と方法』の構成と形成」である。 ガダマーは五○年代初頭に、それまでの白身の諸研究を一つの解釈学理論へと集約しようと決意する。第五章は、ガダマーがその決意の内容がどのようなものであるかを、彼の証言などから分析し、第六章は、五○年代に、それまでの諸研究から、どのように『真理と方法』の各部分が生成し発展したかを、その間に書かれた著述、それ以前に書いた論文との関係、『真理と方法』における脚注、講義や演習のテーマ、ガダマーが書評の対象とした著作などから解明する。 東京理科大学の紀要(平成14年3月末刊行予定)に発表する論文「合流--『真理と方法』に統合される諸研究」は、前半が第五章に、後半が第六章の一部に相当する。後半では、ガダマーの諸研究がいかに『真理と方法』に統合されたかを考察したが、彼が五○年代に書いた多数の書評などは考慮されていないなど、まだ補わなければならないところが多い。 昨年度日本現象学会で発表した「ガダマーの現象学的解釈」は、『現象学年報』に印刷された。報告者は同じ内容の発表をハイデルベルク大学でドイツ語で行った。また、昨年度解釈学シンポジウムで発表した「被投性はどうなっているのか」は練り直されて、来年度『ディルタイ研究』(日本ディルタイ協会)に掲載予定である。この論文は対話概念についてガダマーをハイデガーと比較したものだが、その際、どのようにガダマーが五○年代に、彼がかつて論じたプラトンの対話術や命題論理学批判を、コリングウッドやブルトマンらの刺激を介して、解釈学的な対話概念のなかにとりこんだかが論じられている。この点もまた第六章に組み込まれるべき研究である。
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