研究概要 |
本研究の目的は、ドイツの哲学者ガダマー(Hans-Georg Gadamer,1900-2002)の解釈学の成立過程を再構成することである。ガダマーの解釈学は彼がそれまで研究してきたことの集大成的な側面がある。だから、彼の主著『真理と方法』にまで流れ込んだいくつもの流れを、彼の著述や講義・ゼミのテーマ、手紙、自伝や伝記などを資料として用い、解明する。彼の解釈学思想を構成する筋を解きほぐしてその由来をたどり、その筋がどのように結びつけられたかを明らかにする。 そのような流れにはいくつかのものがあるが、本研究でとくに探究されるのは、即事的解釈とガダマーにおける対話的なものである。即事的解釈はテクストをそこで言われている事柄を尊重しする解釈で、ガダマーが20年代にプラトンを解釈する際に用いた。この即事的解釈は30年代・40年代に一度消えかかるが、『真理と方法』において理論的に正当化された。また、ガダマーが教授資格論文で対象とした対話術は、ハイデガーやリップスの命題論理学批判と結びつけられ、30年後の『真理と方法』において了解の出来事を記述する際に用いられた。これらの筋は他の筋も含めて結びつけられ、最終的にはひとつの解釈学理論となった。50年代に起きたこの統合過程が解明される。この過程のきっかけとなったのは「それまでの研究をまとめて解釈学を作り出そう」という50年代初頭のガダマーの決意であり、この決意の背景であるハイデガーへの再接近などの諸要因も、同時に明らかにされた。
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