今年度は研究計画の第一年度であるので、まず研究計画にしたがって文献購入やハード環境などの研究環境を整備して、特にフィヒテの相互承認論と現代の環境倫理学における承認の問題に関する研究に着手して、その研究成果の一部をそれぞれ「<相互人格性>理論の陥穽」(日本現象学会編『現象学年報』第16号所収)および「環境倫理学における<承認>の問題」(中部哲学会編『中部哲学会年報』第33号所収)として公刊した。 前者に関しては以下の諸論点を論証して明らかにした。 (1)フィヒテの「相互人格性」理論がカントのUbertragungstheorieを受け継ぎながらそれを独特の仕方で発展させた論理であること。 (2)しかし、カントとフィヒテとの決定的な理論的差異は「自己」と「他者」との「同型性」の捉え方の違いにあること。 (3)フィヒテの「相互人格性」理論はヘーゲルをはじめとして、現代哲学にまで非常に大きな影響を与え、特に「素朴心理学」の議論においても重要な問題構制を提供していること。 後者に関しては以下の諸論点を論証して明らかにした。 (1)環境倫理学の分野においても「承認」の問題は重要な意義を持っていること。 (2)その「承認」の構造に関して「相互性」と「一方向性」との論争があり、「一方向性」の議論の代表として、M.ゼールの最近の議論があり、そこでは「情感的承認」という考え方が積極的に提起されていること。 以上である。
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