本研究では、初期フィヒテの「相互人格性理論」の構造分析を起点としながら、「相互承認論」が現代哲学においていかなる意味を持ち、またいかなる問題を孕んでいるのかを以下のように明らかにした。 1、フィヒテの「相互人格性理論」は『自然法の基礎』において確立され、「相互承認」の問題は法・制度・国家などのそれと密接に関連づけられて論じられている。こうした観点からすると、「相互承認論」の原型はスピノザ哲学に求めることができる。その意味では「相互承認論」を「社会契約論」との関係において問題にする必要がある。 2、現代哲学においては、「相互承認」の問題は英米の認知心理学において「模擬説」と「理論説」との間の論争において問題になっている。この場合、「模擬説」はカントのUbertragungstheorieを援用しているが、それは基本的にカントの意図を見誤っていると言える。 3、ドイツの環境倫理学においては、「相互承認」の問題は「自然の情感的承認」のそれとして重要な議論を提供しつつある。 4、しかしながら、「相互承認」の可能性を根本的に考察すると、その核心には「良心」の問題が伏在していることが明らかになった。その意味でカント哲学のさらなる分析が重要となる。
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