本年度の研究では現在の技術哲学の議論を踏まえ、技術的行為の現象学の基礎的視点の確立を目指した。これは次年度に行う予定の各論的研究に対する方法論的、総論的立場を確立するための作業と位置づけられる。 その第一は、現象学やプラグマティズムの換骨奪胎を通じて構想力の視点から技術的行為の検討である。関連性、熟練、身体、創発性などのカテゴリーを再検討することをつうじて、技術が人間の活動を意味を媒介し、新たな形を付与することによりそれらを再構成するはたらきであることを明らかにし、また、この基本視座の上に立って、技術という活動を通じて自然・環境等の問題への接近の可能性を試みた。 また、第二に、新展開がみられるアメリカの技術哲学との対質を通じ、科学の実践的基礎としての技術の再評価を目指した。これは従来のいわゆる技術決定論や技術=道具論の限界性を見据え、それを越えるべきアプローチとして、解釈学や権力論を取り入れた新たな哲学的、政治哲学的アプローチの可能性を明らかにし、技術と社会関係、技術と価値の関係に、新たな議論の方向性を見いだした。 上記の成果の一部は、次頁の各公刊物に反映させられたほか、6月の『思想』での論文、翻訳の掲載を始め、4月以降逐次論文、共著、翻訳等の形で成果が公刊される予定になっている。
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