研究概要 |
今日、生命や環境に技術が多大な影響を及ぼす一方で、技術そのものの見方の変更が課題となっている。本研究では、技術を人間の活動を媒介し、新たな意味を付与する働きとみなす視点を基礎づけ、「技術哲学」を再構築する第一歩とすることができた。本研究で提示され「技術文化」「技術の解釈」という概念は、技術が状況の中で、また歴史的・社会的文脈に応じて柔軟で多義的なあり方を示すことを明確にするものである。これは、例えば、技術=道具説や技術=自立存立説をはじめとする従来の把握では看過されがちな点である。即ち、技術においては、一方で、機械と人間のインターフェースや身体的な熟練にみられる技術の身体論的次元や、どの技術が望まれるかに関する社会的な関連性体系などの<ミクロ>の次元があり、いま一方で、社会的構造における技術の意味、技術に関するガイドラインなどの<マクロ>の次元がある。「技術文化」や「技術の解釈」といった概念は、この両次元を媒介し、技術を人間と人間の間にあるものとして技術の人間学的意味を明らかにするものである。こうした研究は、技術を一面的に自然や社会との対立関係で捉える捉え方を退けるものであり、実践的には、技術に対するより実質的な取り組みを可能にするものである。例えば、技術がはらむ社会的・政治的な意味の把握,技術者のモラルに還元されない技術の評価がそれであり、これらは技術に対する公共的な意思決定の可能性を明らかにする(本研究ではこのことを技術の「ナラティブ」と呼んでおいた)。
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