最終年度は以下の成果を挙げることができた。 1.『家礼』の版本の再調査により新たな情報と見解を得たので、旧稿「『家礼』の刊刻と版本」(『関西大学文学論集』第48巻第3号)にそれを加筆した。この結果、『家礼』諸版本の時代と性格および相互関係がほぼ明らかになったと考える。詳細は研究成果報告書(冊子体)を見られたいが、主な加筆事項は次の4点である。 (1)上海図書館蔵の『纂図集註文公家礼』(存巻五)は、東京大学東洋文化研究所蔵本(存巻三・四)および北京図書館蔵本(存巻六・七)の離れ本であり、もともと明の毛晋汲古閣の所蔵本である。 (2)上記の纂図集註本は元版とする見方があったが、記述内容により、南宋刊本であることが判明した。 (3)上海図書館蔵の明版『家礼』五巻に関する考察を加えた。 (4)『家礼』の作者問題に関し、6つの点から再検討した結果、本書が朱熹の自著であること、ただし未定稿であったことを明らかにした。 2.大阪市立大学で開催された宗族シンポジウム準備会において、本研究の成果を踏まえ「宋代の家廟について」と題して発表した(平成14年11月4日)。 3.『家礼』校訂本を作成した。宋版『家礼』を底本とし、他の8種の版本を用いて校訂をおこない、文字の異同を詳しく注記した。 (1)底本:宋版『家礼』五巻(北京図書館蔵) (2)校訂用版本: (a)清・公善堂覆宋刊本、(b)『纂図集註文公家礼』、(c)『朱子成書』本、(d)『性理大全』本、(e)和刻本、(f)明版『家礼』五巻、(g)四庫全書本、(h)郭嵩〓『校訂朱子家礼』 校訂本の作成は『家礼』研究のために必要不可欠な作業であり、今後の内容的研究に着実な基盤を提供するものである。校訂本は、研究成果報告書(冊子体)に掲載した。
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