本研究における作業と、それを通じて得られた新たな知見は主に以下のとおりである。 1.『家礼』諸版本の調査収集とその明確化 調査の対象は、北京図書館、上海図書館、京都大学人文科学研究所、花園大学、内閣文庫、東洋文庫等に及び、諸版本の時代、性格および相互関係を初めて明確化した。そしてその成果を、旧稿「『家礼』の刊刻と版本」(『関西大学文学論集』第48巻第3号)を訂正補筆するかたちで示した。 2.『家礼』の作者の特定 版本の調査、序跋類の記述等により、従来の『家礼』偽作説が誤りであることが判明した。同書は未定稿ではあったが、朱熹の自著であったと考えられる。 3.家廟および『家礼』をめぐる祖先祭祀の歴史的考察 宋代における家廟の思想と性格および『家礼』との関係を、「宋代の家廟と祖先祭祀」(小南一郎編『中国の礼制と礼学』所収、朋友書店、平成13年)において検討し、宋代儒教における祖先祭祀の状況を実証的かつ歴史的に明らかにした。 4.口頭発表 大阪市立大学で開催された宗族シンポジウム準備会において、本研究の成果を踏まえ「宋代の家廟について」と題して発表した(平成14年11月4日)。 5.『家礼』校勘本の作成 宋版『家礼』を底本とし、他の8種の版本を用いて校訂をおこない、文字の異同を詳しく注記した。 (1)底本:宋版『家礼』五巻(北京図書館蔵) (2)校勘用版本: (a)清・公善堂宋版〓刻本、(b)『纂図集註文公家礼』、(c)『朱子成書』本、(d)『性理大全』本、(e)和刻本、(f)明版『家礼』五巻、(g)四庫全書本、(h)郭嵩〓『校訂朱子家礼』 校勘本の作成は『家礼』研究のための必要不可欠な作業であり、今後の内容的考察に着実な基盤を提供するものである。 なお、以上の成果はすべて研究成果報告書(冊子体)に掲載してある。
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