山片蟠桃の著『夢ノ代』の排仏論は次の二点に要約される。 1.荒唐無稽な宇宙論や世界観に代表される仏教の非合理性に対する否定。 2.政治や教育は儒教によるべきである。 第1点は経験や実証によって得られた知識のみを真実とする蟠桃の合理主義からの結論である。この合理主義は蟠桃の師の中井履軒に見られ、朱子学の合理主義の新解釈として五井蘭洲に遡ることもできる。一方、第2点には宗教という言葉のなかった江戸時代にあって、宗教と思想の違いの認識が見られるが、この主張が履軒よりもたらされたか、蟠桃の創見かはわからない。 『夢ノ代』の記述から蟠桃の創見を抽出するという視点での履軒の知識や思想の研究が必要である。そのため、履軒の著述、特に写本の「聞書(ききがき)」類の収集を行った。数多いこれらの書は読解や分析がまだ進んでいない。今後はこれらの資料の研究を課題にしたい。 また、江戸時代の教育機関である昌平黌や水戸・弘道館、酒田・致道館などにおける釈奠儀式に関する文献調査を行ない、各地の学校の昌平黌化を知ることができた。今後さらに各地の藩校や漢学塾の地域による教育内容の違いと平準化を調べ、懐徳堂の特色を明らかにしたいと考えている。
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