本研究はミーマーンサー学派の大哲学者クマーリラ・バッタの主著『タントラヴァールッティカ」別第1巻第三章「聖伝章」の研究であり、4年間で完結することを目指した。 本研究の成果の一つは、タントラヴァールッティカ聖伝章の原典を写本に基づいて再構成しえたことである。すなわちタントラヴァールッティカの本章は、クマーリラ当時の思想状況を窺うことのできる重要な文献とされて研究者の興味を惹いてきたにもかかわらず、そのテキストそのものの問題が未だに放置されていて批判的出版が待たれていた。本研究は、これまで収集した3種類の写本に基づいて、従来の出版本の再検討を行い、原典の再構成を試みた上で聖伝章全体の研究を遂行した。 二番目の成果は本章の未出版の新たな注釈を発掘して、そのローマ字本テキストを作成したことである。すなわちタントラヴァールッティカの原典の解明と、それに関連してその注釈類の発掘を遂行することも本研究の主要目的であった。注釈は数種類存在するとされるが、出版されていたのはNyayasudhaのみであった。近年筆者はParitosamisra作Ajitaを部分的ながら出版し、その注釈Vijayaも聖伝章を出版し終えた。さらにその現存する唯一の写本がインドBaroda市の図書館に保存されている注釈Avyayanubhava Mahadevasrama作Tantracintamaniもコピーを入手したので、そのローマ字本を完成した。そして可能な限りこれまで学界に紹介されたことのないこの注釈も本研究に利用した。本研究はこれらの注釈類が本格的に利用された最初の研究である。 本研究により得られた知見によって、タントラヴァールッティカ聖伝章の正確な原典が得られ、また諸注釈者の見解の相通を明らかにすることにより、不明な部分の多く残されているミーマーンサー思想史の一端が今後解明されることが期待される。
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