平成14年度は、当該科学研究の三年目であり、最終年度であった。この一年間は、一昨年度・昨年度に引き続き、『八千頌般若経』の古訳である支婁迦讖訳『道行般若経』のグロッサリー(詞典)と『道行般若経』の校訂注釈本を執筆した。詞典では、英訳を附し、さらに六種の漢訳異訳、梵本(刊本とアフガニスタンで新たに出土した梵語古写本)及びチベット語訳の対応語を併記した。また、校訂注釈本では、細かく章立てを施し、諸漢訳・梵本・蔵訳の対応箇所を示し、難解な箇所は英訳すると同時に梵本・支謙訳・鳩摩羅什訳の対応箇所を引用した。これらの作業はすでに『道行般若経』全体の70%程度まで進んでいる。一、二年内に、残りの部分を終わらせ、『道行般若経詞典』と『道行般若経校注』を出版しようと思う。大部な出版物になるが、これらが完成すれば、本経は勿論、他の古訳経典をかなり正確に読解できるようになるに違いない。 なお、中国と台湾や欧米でも、近年、仏典を漢語史の材料として研究する学者がとみに増え、彼らの間で、筆者の方法-漢訳仏典の漢語を対応する梵語・チベット語と比較して分析する方法-と研究成果とが、大いに注目されている。筆者の業績と履歴を紹介した論文が台湾と中国で出たのを始め、今年からは北京大学漢語史研究センターおよび湖南師範大学漢語史研究所の兼任教授に就き、またスウェーデンの社会科学高等研究コレギウム(Uppsala)の兼任研究員にもなる予定。筆者が努めて英語・中国語で論文・著作を発表してきた効果が現れはじめたと思う。
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