研究概要 |
インド仏教がいかに多様化してしいったかという問題を研究課題として,調査を開始した。平成13年度は,この問題に対して2つの方向からのアプローチを試みた。ひとつは原初期、単一宗教として成立した仏教が,多様化の結果,部派に分裂していくその過程の解明。もうひとつは,多様化した仏教世界で,新しい教義を提唱した人々が,既存僧団の中でどのように自己の生活の場を確保していたかという問題の解明である。前者に関しては,前回の科研費対象研究であった「アショーカ王時代の仏教の変移」の結論を踏まえて,パーリ仏教が従来考えられていたような部派の一つではなく,部派成立以前の単一宗教としての仏教の末裔ではないかとという作業仮説を設定し,その妥当性を検証する作業を進めた。いまだ明確な結論には至らないが,少なくとも,部派の名称や,その教義から考えて,そのような作業仮説を設定しても大きな矛盾は起こらないという事実を指摘することができた。後者に関しては,アランヤ(森林)で暮らす独特の生活法を採る出家者の実情を各種文献の中に探り,大乗仏教諸派の中には,そういったアランヤ住者が中心になって創設されたものと,逆に,アランヤ住者を批判する立場から創設されたものの二種類が存在することを明らかにした。この事実をさらに追求することで,同時並行的に生じてきた複数の大乗グループを,いくつかの系統に類別し,その起源を想定することができる可能性が見えてきた。本年度もこの二つの方向を維持し,そこに婆沙論などの重要資料の情報を加味しながら,仏教多様化の様相を解明していくつもりである。
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