本研究は死をめぐる宗教学的視点からのアプローチ、死者儀礼、死者崇拝、死生観などについてどのような研究がなされているか、全体像を把握することを可能にするような資料の整理を、できる限り偏らない統合的な視点から提供することを目的として開始された。本年度が研究の最終年度に相当する。本年度は前年度から引き続いて、資料の収集とその整理を行ったが、特に最終年度であることに鑑み、研究成果を報告書の形にまとめることに力点を置いた。 本研究では、その目的に従い、二つの課題が設定されている。一つは、様々な研究分野・方法論における現在の死の状況に関する議論を広く収集し、それをビブリオグラフィー化すると同時に、各文献が基本的に生と死についてどのような見方を内包しているかを整理する作業である。研究報告書の第一部と第二部がそれに相当する部分である。第一部は本研究によって収集・整理した文献のビブリオグラフィーであり、第二部はそれらに対して行った整理の、いわばサンプルである。これらによって、死にかかわる宗教学的研究として、どのような文献が存在するのかを検索し、それらがどのような性格のものなのか、広く現在の研究状況を把握することが可能になっている。 本研究のもう一つの課題は、様々な文化における死および死者に関する宗教的な現象・行為・観念の事例を収集し、人類文化全体として、それがどのような構造を持ち、またどのような可変性を持つのかを俯瞰できるような整理を試みることである。当然のことながら、単独の研究者が多くの文化に関してこの作業を行うことは不可能であり、先ず、研究代表者が専門とする文化について、一種のサンプルを提供するのが現実的である。研究報告書の第三部がこの部分に相当する部分であって、中国の古代から中世にかけて、死者の在り方がどのように変化していったか、それが何を表していたかを論じた。 本研究担当者の視点が基本的に宗教学というディシプリンからのものである以上、本報告にも一定のバイアスが含まれることは否めないであろう。しかし、宗教的な死生観が死後の存続や他界の信仰といった表面的な特性によってのみ捉えられるべきではなく、死という破壊を有意義なものに変換するすることにより、生をも有意義なものにする営みでもあったこと、それ故に我々にとっても看過することのできない現代的な意義を有するものであることを示すことができたと思う。
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