本研究の成果は、次のように要約できる。 (1)ニュートン主義の自然神学は、理神論者や自由思想家など、多様な思想的潮流が交差する近代イギリスの状況の中で、キリスト教の合理性を擁護することを目指していた。ニュートン主義と理論論とは、キリスト教信仰の合理性の理解において一致点も多く、その関係は、きわめて錯綜している。この両者の関係を明確化するために、本研究ではニュートンの親しい友人であったロックと理神論者トーランドとの詳細な比較を行った。 (2)ニュートン主義の自然神学(とくに、意図からの神の存在論証)は、18世紀にヒュームによって哲学的批判を受けたが、最終的には、19世紀の進化論によって徹底的な論駁を受けることになった。しかし、この進化論に対するキリスト教思想からの応答は、キリスト教的進化論者から創造主義者まで様々である。19世紀段階の議論を振り返るとき、進化論と創造論の対立は、多分に感情レベルの論争に終始しており、全体として十分な思想的深まりに欠けていたと言わざるを得ない。 (3)現代キリスト教思想における「宗教と科学」の問題状況を具体的に分析するために、ティリッヒの科学論、エコロジーの神学というテーマについて詳細な検討を行った。それによって明らかになったのは、宗教と科学の積極的な関係構築にとって、キリスト教思想と科学の間に、あるいはキリスト教とほかの諸宗教との間に、対話が成立することの重要性である。自然神学は、現代の思想的状況においては、この対話のための基礎理論として意味づけることができるであろう。
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