研究概要 |
10月に追加採択の内定通知を受け、実際に予算執行が可能になったのは12月であったため、それ以後の期間内には、来年度以降の本格的な研究のための文献収集および予備的研究を行なうことしか出来なかった。しかし、内定通知以前に今年度執筆発表した論文「戸坂潤における『文学』の意味をめぐって-現代の『カルチュラル・スタディーズ』との関係で」では、「文学」における想像力の問題を戸坂がなぜ重視したのかを、科学と文学の関係を中心に戸坂の思想全体の構造からとらえ、概念と対比される表象や想像力の扱いに、戸坂が道徳・モラルの中心問題を見い出すに至った経緯を解明した。また、戸坂と同様な問題意識が、現在、「カルチュラル・スタディーズ」などを通じて現代思想によって再発見されていることも確認した。これによって、主に近代ヨーロッパを対象とした本研究を実施するにあたって、まず、近代日本における、また現代思想における「想像力」問題の位相を確かめて、その研究の今日的意味を明らかにすることがある程度できた。この問題については、さらに三木清の『構想力の論理』などと対比して発展させてゆくつもりである。 12月以降においては、R.Kearney,The Wake of Imaginationを中心として「想像力」についての一般的な問題を確認しながら、特に18世紀において、両極をなすと考えられるアダム・スミスとルソーにおける「想像力」の扱いについて対比的に研究をすすめるための予備調査を行なった。また特に、ハイデガーを通じて明らかにされたカントの「超越論的構想力」をめぐる問題が、19世紀から現代までの「想像力」問題の一つの中心と考えられるため、これについても文献を収集し、問題の輪郭を確認することにつとめた。これらが、来年度の研究の中心となる。
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