この間、「想像力」の問題をめぐる倫理学の現代的状況の把握を基礎に、「想像力」をめぐる肯定と否定が対立するアンチノミーというべき問題の由来を、近代から現代に至る欧米の倫理学の歴史のなかに探る作業を行なった。今回、報告書としてとりまとめたのは、そのうち、ルネサンスから十八世紀のルソー、スミスまでの歴史である。その概要を述べれば、まずルネサンスにおいて、特に、フィチーノに代表される新プラトン主義によって、善と美と愛の一致を基礎に、「想像力」は倫理的にも高く評価され、すべての徳を支えるものとさえされる。これが、近代の出発点であったが、次の十七世紀において、デカルト、パスカル、ホッブズによって「想像力」は否定的に評価されるようになる。それは、ルネサンス的「想像力」の問題点が表面化したことと考えられる。この否定的態度は、ルソーによってさらに発展させられ、近代の文明社会に対する批判にまで拡大される。それに対して、イギリスにおいては、シャフツベリから始まり、スミスに至る過程でしだいに「想像力」の再評価が行なわれ、最後にスミスにおいて、「同感」と「想像力」が結びつけられることによって、再び、「想像力」が倫理の基礎とされる。けれども、それは、出発点にあったルネサンス的「想像力」を受け継ぎながら、十八世紀の市民社会の発展に照応した変容をこうむったのである。しかし、このスミスの倫理学でさえ、その内部に「亀裂」「分裂」を抱えたものであった。とれが、次の十九世紀における「想像力」の問題の変容につながる。以上のような今回の成果を基礎に、今後は、十九世紀から現代に至る「想像力」の歴史をさぐってみたい。
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