本研究は、生命に対する人間の直接的な介入と操作という行為によって生じる倫理的な衝突の問題を分析し、それを解決するための倫理的価値構造を考察することを目的とするものである。桑子は、研究成果として、2000年度および2001年度初頭に行われた東京工業大学生物実験センターでの講習会の講師として、「生命倫理」の部分を担当し、生物実験従事者の倫理意識向上に資するとともに、同講習会で、生物実験従事者の生命に対する関心、態度、倫理的な意識、基本的な知識などについてアンケート調査を行い、この調査にもとづいて、口本生命倫理学会に「東京工業大学における動物実験についての安全・倫理教育への取り粗みについて」(大上泰弘と共著)と題して発表した。 また、生命倫理を含む価値の問題に関して、考察の方法論を「価値構造」の概念で捉え、この概念のカバーする領域を環境、情報、生命の三者の融合領域として、現代社会の抱える問題について考察を『環境と国土の価値構造』として刊行した。本書においては、生命科学の抱える倫理的な問題を環境の問題と不可分なものとして論じるべきであるという点を明らかにしている。 また林は、現代科学の抱える問題を「リスク」の点から捉え、「科学論から見た『リスク』概念」を発表した。 以上のように、本年度における本研究は、主として、方法論と基礎理論の点では出版という方法で、また具体的な事例研究および新たな倫理システムの提案という点では、学会誌等での発表という形で進めることができた。 来年度は、海外等の倫理規則等に関する考察を加えるとともに、東京工業大学での生物実験センターでの講習会における倫理教育の実践をも踏まえた研究成果のとりまとめを行う予定である。
|