研究概要 |
東方・ギリシア教父の伝統は、東洋における大乗仏典成立の歴史にも似て,後世の範とすべき哲学・倫理学上の源泉であったが,本研究では今年度,とくに盛期および後期の代表者として,それぞれニュッサのグレゴリオスと証聖者マクシモスを取り上げ,彼らの主要著作について探求した。ニュッサのグレゴリオスについては『雅歌講和』,『モーセの生涯』,『キリスト者の生のかたち』などの主著を吟味することによって,諸々の自然・本性(ピュシス)と人間が,人間的自然・本性に収斂しつつ,全体として無限なる存在の顕現に向って開かれてゆく動的な構造を明らかにした。また証聖者マクシモスについては,とりわけ主著『アンビグア(難問集)』に取り組み,自然・本性(ピュシス)そのもののダイナミズムを見定め,それが人間におけるアレテー(徳)という,善へと関わりゆく動的な姿へと展開してゆくこと,そしてそこに自由,悪,罪の問題が,いわば存在論の要諦として介在してくることについて基本的な考察を加えた。これらの諸論点はむろん時と処とを超えて人間と歴史の根本に関わってくるものであり,今後より包括的に研究を進めてゆく礎ともなった。
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