本年度は次のような活動をおこない、中間的な成果として、ヴァールブルクの伝記的研究である『アビ・ヴァールブルク 記憶の迷宮』と題する書物を完成させた。 1.ヴァールブルク研究所におけるパノフスキーをはじめとする図像学研究を方法論的な見地から検討し、個別の美術史的分析ではなく、方法論的な次元においてヴァールブルクの思想との比較をおこなった。そのために、図像学が学問的な言説として制度化されるプロセスを、1920〜30年代のドイツとその後のロンドンを中心とするヴァールブルク学派の活動のなかに辿った。 2.ヴァルター・ベンヤミンの初期の著作である『ドイツ悲劇の根源』におけるヴァールブルクからの影響について、仔細に検討を加えた。さらに、ヴァールブルクの思考を『パサージュ論』などで展開された、ベンヤミンのイメージ(像Bild)をめぐる思想や、ルートヴィッヒ・クラーゲスの『魂の敵対者としての精神』などにおける議論と比較しつつ、ジークムント・フロイトやカール・ユングの精神分析を視野に収めて、イメージと記憶、あるいは近代における「古代の再生」といった問題を中心に、世紀転換期から1930年代にいたる時代のドイツ文化圏の思潮についてイメージ論の観点から思想史的な分析をおこなった。 3.ヴァールブルク晩年のプロジェクトである図像アトラス「ムネモシュネ」について、そこに集められた図象群の織りなすネットワークの構造を解析し、イメージ記憶の圧縮と変容の操作における精神分析の知見、あるいは諸芸術ジャンルにおけるモンタージュ技法などとの関連について考察した。
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