本年度は今までの研究テーマのなかから、次の点についてさらに調査・分析を深め、研究全体を有機的に関連づける作業をおこなった。 1.ヴァールブルクの思考をルートヴィッヒ・クラーゲスの『魂の敵対者としての精神』などにおける議論と比較し、ジークムント・フロイトやカール・ユングの精神分析を視野に収めて、イメージと記憶、あるいは近代における「古代の再生」といった問題を中心に、世紀転換期から1930年代にいたる時代のドイツ文化圏の思潮について、イメージ論の観点から思想史的な分析をおこなった。これによって、クラーゲスもその一端を担ったバッハオーフェンの母権論思想復活の動向をはじめとする、この時代のドイツ思想における神話的イメージの大きな役割が見出された。また、ヴァールブルクの思想とヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論』との比較対照を通じて、このいずれもがその背景にゲーテ自然学、とくに形態学の思想をもっており、同時代の思想に幅広く同一傾向の見られる点が明らかとなった。 2.ヴァールブルク晩年のプロジェクトである図像アトラス「ムネモシュネ」について、そこに集められた図像群の織りなすネットワークの構造解析の作業を引き続いておこなった。これによって、「ムネモシュネ」におけるイメージ記憶の圧縮と変容の操作が精神分析が解明した「夢の仕事」に対応している点が仔細に検証されるとともに、イメージ記憶の連鎖が一定のテーマを中心に、パターン化された配置関係において把握されていることが見出された。さらに、「ムネモシュネ」におけるイメージの系統樹的な配置方法のなかにも、「像」のメタモルフォーゼを通じて生命の「原型」を直観しょうとする、ゲーテに遡る自然学の影響が確認された。
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