本研究は、日本プレ近代思想が、明治維新とそれ以降の近代化を支えるどのようなエートスを構成したのかを、その系譜学において再構成するものである。 研究成果報告書では、プレ近代思想でもっとも重要な思想家である、本居宣長に焦点をあてた、二つの研究論文を成果として公表することができた。 第一論文「本居宣長の言語ゲーム」では、ポスト朱子学としての宣長の国学の根本動機を、ヴィトゲンシュタインの言語ゲームをモデルとして考察することを試みた。これによると、宣長の国学が日本のナショナリティを構築できたのは、儒学(二次ゲームの層)に先行する道なき道としての原日本(一次ゲームの層)を、古事記に対する文献学的操作によって実証できたからであった。そのディテールが、今回はじめて明らかになった。 第二論文「プレ近代の思想はどこに消えるのか」では、世界を構成する二つの原理である内在/関係の交錯として、プレ近代思想の展開を再構成し、宣長の「もののあはれ」に内在の原理の極北をみた。この純化された内在の原理が、内破されるプロセスとして、尊皇攘夷から開国に急展開する維新の力学を見通し、日本近代の世界像をプレ近代の再演として把握する斬新な視点を提示した。 これらの考察によって、日本プレ近代思想の現実的な含意と機能が明らかになり、現代の課題に直結する系譜的な連続性を構想する基本仮説が確立したと言えよう。
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