本年度は、研究の初年度に当たるため、データの収集に力をそそいだ。とりわけ、現代における活人画的なものの現われに関するデータ収集のため、国内および海外で調査旅行を行なった。国内では、現代美術や舞台芸術、ファッションや見世物などにおける活人画的なものについて、かなり広範にデータを収集することができた。また、海外での調査に関しては、上海(中国)と、ニース(フランス)、フィレンツェ(イタリア)へとおもむき、現代美術と見世物における活人画的なものについて調査を行なった。特に、中国では、美術におけるパフォーマンスというかたちで、活人画的なものがさまざまに試みられていることが確認でき、大きな収穫だったと思っている。活人画的なものの必須要件は、身体が静止して提示されることであるが、パフォーマンスも含め、ある種のアクロバット的な要素が見出されることに、あらためて気づかされた。ヒステリー患者について指摘されてきたアクロバット的要素の問題ともあわせて、活人画的なものの奥行きに、もっと探りを入れる必要を痛感した次第である。その一方で、ファッションや見世物といった大衆的な文化と触れあう領域でも、活人画的なものをいくつも発見できた。本来は自由に動かせるはずの身体を静止させ続けることの意味とともに、人間における変身願望の根深さについても、さらに研究を深めることを要請された一年だったように思う。これらの問題の探求を、次年度以降さらに進めるべく、本年度のデータ収集を活用していくつもりである。
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