構成素の「編成(グループ化)」を意味する「コンステレーション」概念は、1910、20年代のヨーロッパにおける芸術、心理学、生物学、思想の諸領域で重要な役割を果たした。この時代は、「近代」の変革期として、感性的体験や発展概念、部分と全体との秩序概念について再検証・再構築を余儀なくされたからである。造形芸術においては、近代の制作論で主導的役割を担ったコンポジション概念にかわって、コンストラクションやコラージュといった手法・概念が登場した。しかし、周知のこうした変化の根底に、同時代の諸領域にも通底する、より重要な特性を認識すべきであろう。従来注目されてこなかった概念だが、それが「コンステレーション」である。 この概念は、生命哲学というべきモーガンやアレキサンダーの1920年前後の著作に明示される。彼らによれば、新しさとは要素の加算的付加ではなく、ある配置の変化から「浮上する(emergent)」特性なのである。この「創発性(emergence)」は、システム内の要素の配置、関係への注目にほかならない。一般に造形芸術では、この時期のモンドリアンやクレーの作品に認められるグリッド(画面のオールオーヴァーの格子)は近代的コンポジションの否定とみなされるが、むしろコンステレーションという視点からとらえなおすべきである。同様に、1910年代に発展したマンセルらの色彩オーダー・システムも、実は絵画にとっては新しいコンステレーションの示唆にほかならなかった。この概念の重要さは、バウハウス資料などの分析からも確認できる。本研究は、20世紀絵画・美術史をイズムの歴史ではなく造形思考の展開としてみるさいに、コンステレーション概念が重要な座標軸となることを確認し、またそうした視点の有効性を提唱するものである。
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