17世紀の西洋において誕生する美術品カタログは、続く18世紀に形式が確立され、以後、19世紀、20世紀へと発展していく。本研究が注目したのは、フランスを中心とした美術カタログ生成期における競売カタログの成立の過程と、その形式に開かれてくる絵画作品の言説化の問題である。以下、明らかになった新たな知見を箇条書きにする。 1 競売カタログの分類形式と記述形式は、18世紀にほぼ基本形を完成させる。 2 その基本形とは、絵画作品をイタリア、ネーデルラント、フランスの3流派に分類し、作品それぞれを、主題を中心とした記述によって紹介するものである。 3 この競売カタログは、19世紀における美術館カタログのモデルとなっていく。 4 18世紀に成立したカタログ形式は、19世紀の後半に入り、挿絵(図版)の挿入によって、新しい局面を迎える。それは、作品記述の「記号化」をもたらす。 5 競売カタログは、18、19世紀の前半にあって、美術史を表象する言説空間として機能する。その言説は、カタログの分類・記述形式によって生まれる。 6 カタログ生成期を通して、作品の物質的側面(額縁等)の情報が少なくなっていき、逆に、図像(主題)の情報が多くなっていく。 7 作品記述は、画面描写を中心に精密になり、それが絵画の非物質化をもたらす。この傾向は19世紀に入り、挿絵(図版)の挿入によってますます顕著になる。
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