日本に伝えられて現存している中国唐宋時代の木彫仏像とこれに関連する日本木彫仏像を正側二方面から全身X線透過撮影し、全36体の作例についてフィルム原板618枚の透視影像を収集して、中国請来木彫仏像の像内透視に関する基礎的研究資料を作成した。さらに収集したX線透過写真資料により、外部からは観察不能の各作例の内部構造について詳細な透視調査を実施した。鉄釘等を使用した部材矧ぎ寄せ技法、像内内刳の技術、練物等の異質材を嵌入する技法など木彫独自の技術に関して透視調査を進め、木彫仏文化における中国と日本との影響関係を制作技法面から具体的かつ科学的に解明することに努めた。 主要な研究成果を列挙すると、1 最古の寄木彫刻作品として注目される奈良・中宮寺の菩薩像(国宝)を初めてX線透過撮影することに成功し、初期寄木彫刻技法について内部構造を含めて全面的に解明するための基礎資料を収集した。 2 中国唐代木彫仏像の代表である京都・東寺の兜跋毘沙門天像(国宝)について全身X線透過撮影し、本体および地天座まで大きく内刳した構造であることを解明し、同様の内刳法が同時代の日本木彫仏像にも適用されていることをX線写真資料によって証明できた。 3 中国唐宋時代木彫仏像に特徴的な眼球部への異質材嵌入技法が、日本木彫技法に影響したことを、東寺の五大虚空蔵菩薩像(唐時代、重文)ならびに京都・清涼寺の釈迦如来像(宋時代、国宝)と兵庫・中山寺の十一面観音像(平安時代、重文)のX線透過写真資料によって実証できた。 4 鳥取・三仏寺の蔵王権現像(平安時代、重文)と兵庫・中山寺の十一面観音像二体(鎌倉時代)を初めてX線透過撮影し、像内納入品の検出に成功した。
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