本研究においては、中国請来木彫仏像の制作技法と内部構造を科学的に解明するために、28件の中国および日本の木彫仏像についてX線透過撮影し、四つ切判フィルム原板717枚の透視影像資料を収集した。研究成果の第一は、練物技法をX線撮影によって影像化し、日本木彫には見られず中国木彫のみに行われる特殊技法として、練物の存在を科学的に実証したこと。これによって中国木彫像と日本木彫像は、X線影像化された練物技法の有無を基準として初めて科学的に判別することが可能になった。 研究成果の第二は、頭・体の躯幹部を二材以上で彫刻して内刳りを施した寄木内刳技法が、中国唐宋時代木彫技法として存在することを、東寺、清涼寺、泉涌寺の請来木彫仏像のX線透過撮影によって初めて科学的に実証したこと。これによって平安後期における日本木彫の独創的技法と考えられて来た寄木内刳技法が、中国木彫からの影響によるものとして見直す必要性が新たに提起された。 本研究によるX線透過撮影で内部構造が科学的に解明された、観音菩薩半跏像(神奈川・清雲寺、南宋時代・13世紀、像高87.5cm)、観音菩薩坐像(京都・泉涌寺、南宋時代・13世紀、像高113.8cm)、月蓋長者立像(京都・泉涌寺、南宋時代・13世紀、像高69cm)、韋駄天立像(京都・泉涌寺、南宋時代・13世紀、像高86.8cm)、韋駄天立像(岐阜・長滝寺、南宋時代・13世紀、像高97.3cm)、善財童子立像(岐阜・長滝寺、南宋時代・13世紀、像高64.5cm)は新たに重要文化財指定を受けた。したがって本研究による成果は中国請来木彫仏像の文化財指定においても大きな貢献をした。
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