視野中のある領域の知覚される明るさは、その領域の周囲の輝度によって影響される。例えば周囲がより明るければ、その領域は実際より暗く見える。この明るさ対比現象において、テスト領域・比較領域と周囲の誘導領域との間の奥行き(両眼視差)と運動が及ぼす影響を調べた。実験1ではテスト領域・比較領域が誘導円に対し両眼視差なしの条件および交差視差を持った(手前に浮き出して見える)。結果は、明るさ対比はテスト領域・比較領域が背景から運動と両眼視差の両方で分離されている場合に最も弱く、運動も両眼視差もない場合に最も強かった。運動または両眼視差の片方だけの場合は、上記2つの中間であった。明るさ対比の抑制効果は運動よりも両眼視差の方がやや大きく、両者の効果はほぼ加算的であった。実験2ではテスト領域・比較領域が誘導円に対し両眼視差なしの条件および非交差視差を持った(穴状に引っ込んで見える)。その結果、明るさ対比はテスト領域・比較領域が背景から両眼視差で分離されている条件で強くなった。運動による抑制効果は実験1と同様であった。奥行きと運動の効果は互いにほぼ独立であった。実験1と実験2の結果の差は「錯視的透明効果」(illusory transparency)で説明される。つまりテスト領域・比較領域が周囲の誘導領域に対し非交差視差を持つ(穴状に引っ込んで見える)条件では、誘導円パターンがテスト領域・比較領域上に主観的に延長され、部分的に透明フィルムのようにかぶさって見える。そこで、黒いパターンの透明フィルムを「通して見える」テスト領域(輝度一定)自体はより明るく知覚されるので、それにマッチさせるためには、白いパターンの透明フィルムを「通して見える」比較領域を、両眼視差のない場合より明るくする必要がある。そのために両眼視差無しまたは交差視差の場合より、明るさ対比が強くなったと考えられる。
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