視覚記憶における色の有無の効果を調べた。刺激画像は、比較的均質であり、色の自由度が高く、しかも言語化が困難であるという条件を満たすものとして、240枚の部屋インテリアの写真を用いた。実験1では、学習時に提示された120枚の写真のうち半数はカラー、残りはモノクロであった。被験者は、各5秒間ずつ提示される写真を記憶するように教示された。30分間の休憩後、被験者は、提示済みの120枚と未提示の120枚の写真を一枚ずつランダム順に提示され、見覚えの有無を答えた。結果はカラー画像の記憶はモノクロ画像よりもやや優れていることがわかったが。記憶システム内で、色の表象が空間位置と結合しているかどうかを検証するため、実験2では記憶テスト時にカラー写真の半数とモノクロ写真の半数を左右反転して提示した。被験者は、オリジナル写真か左右反転にかかわらず見覚えがあるかどうかを答えた。結果は、左右反転はモノクロ画像の再認記憶には影響しなかったが、左右反転はカラー画像の記憶を低下させた。より詳しいデータ分析の結果、左右反転によるカラー画像の記憶低下は男性被験者のみが示し、女性被験者では左右反転の効果はほとんどないことが判明した。実験2では実験1と同様に意図的記憶課題を用いた。この性差は、男女の記憶ストラテジーの差(画像のどういう特徴に注目するかなど)によるものかもしれない。そこで、実験3では実験2と同じ刺激で偶発記憶課題を用いたが、実験2の結果が支持された。これは視覚記憶システムにおける色と空間位置との役割が男女で異なることを示唆する。男性の視覚記憶は物体の空間的配置に重点を置き、しかも色表象は特定の空間位置と結合している。他方、女性の視覚記憶は空間位置とは独立の物体そのものに媒介される傾向が強い。物体認識が視点不変(viewpoint-invariant)である限りにおいて女性のシーン(scene)再認は左右反転に影響されないと言える。
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