(研究1)視野中のある領域の知覚される明るさは、その領域の周囲の輝度によって影響される。この明るさ対比現象に、誘導領域の奥行き(両眼視差)と運動が及ぼす影響を調べた。実験1ではテスト領域・比較領域が誘導領域に対し両眼視差なしの条件および交差視差を持った(手前に浮き出して見える)。結果は、明るさ対比はテスト領域・比較領域が誘導領域から運動と両眼視差の両方で分離されている場合に最も弱く、運動も両眼視差もない場合に最も強かった。運動と両眼視差の効果はほぼ加算的であった。実験2ではテスト領域・比較領域が誘導領域に対し非交差視差を持った(穴状に引っ込んで見える)。その結果、非交差視差は明るさ対比を増大させた。運動による抑制効果は実験1と同様であった。実験1と実験2の結果の差を説明するため「錯視的透明効果」(illusory transparency)を提唱した。 (研究2)視覚記憶における色の有無の効果を調べた。比較的均質であり、色の自由度が高く、しかも言語化が困難である刺激画像として部屋インテリア写真240枚を用いた。実験1では、カラー画像の記憶はモノクロ画像よりもやや優れていた。記憶システム内で、色の表象が空間位置と結合しているかどうかを検証するため、実験2・3ではテスト時に写真の半数を左右反転することで、画像中の特徴の相対位置を変えず、絶対空間位置のみを変えた。結果は、左右反転はモノクロ画像の再認記憶には影響しなかったが、左右反転はカラー画像の記憶を低下させた。さらに、左右反転によるカラー画像の記憶低下は男性被験者のみが示し、女性被験者では左右反転の効果はほとんどなかった。これは視覚記憶システムにおける色と空間位置との役割が男女で異なることを示唆する。男性の視覚記憶は物体の空間的配置に重点を置き、しかも色表象は特定の空間位置と結合している。他方、女性み視覚記憶は空間位置から独立の物体そのものに媒介される傾向が強い。
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