研究概要 |
本研究の目的は、「鏡に映ると左右が反転して見える」という鏡映反転の原因を明らかにすることである。この問題はプラトン以来議論されてきたが、未だに定説は存在していない。代表者(Takano, Psychonomic Bulletin & Review, 1998)は、鏡映反転に関連するすべての現象を矛盾なく統一的に説明できる理論(多重プロセス理論)を提案した。今回の研究では、この理論の妥当性を実験的に検証した。 申請者は、「鏡像の左右は反転していない」と主張する人が存在することを発見した。多重プロセス理論は、観察者自身の鏡像については、左右反転を認識しない人が存在することを予測するが、そのような人も、文字・数字の鏡像については、必ず左右反転を認識すると予測する。これに対して、従来の説明は、いずれも単一の原理で両方の左右反転を説明しているので、「自分自身の鏡像の左右は反転していない」と主張する人は、文字・数字についても鏡映反転を認識しないと予測する。 今回の研究においては、まず、そのような人を探すという作業を第1段階とした。4大学計583名の大学生に教室で質問紙を配布し、自分自身の鏡像が左右反転していると思うかどうかを尋ねた。その結果、278名(約46%)が「反転していない」と回答した。 第2段階においては、「反転していない」と回答した学生と「反転している」と回答した学生の両方合わせて102名に個別に実験室に呼び、実際に鏡に自分自身を含むさまざまな対象を映して、反転の有無を判断してもらった。自分自身の鏡像については33%が「反転していない」と判断し、66%が「反転している」と判断した。しかし、どちらの学生も、文字・数字の鏡像については、100%「反転している」と回答した。すなわち、多重プロセス理論の予測を明白に裏づける結果が得られた。
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