研究概要 |
最近の実験心理学的研究によれば,「注意の復帰抑制」現象や反射性の定位運動が,刺激を提示される網膜上の位置の違い(鼻側vs.耳側)によって影響を受けることが示されているが,これは鼻側網膜が反射的な眼球運動の制御にかかわる皮質下領域に直接投射しているためと解釈されている。本研究ではこうした仮説的説明の可能性について,従来の先行研究で用いられたものとは別の課題を用いて検討し,以下の2つの知見を得た。 1.小さな光点を瞬間提示した直後に、背景刺激を急速に動かすと,光点の位置が誤って判断される錯視現象がある。そこで光点を網膜の鼻側あるいは耳例のいずれかに提示し,それによって生じる錯視現象の違いを検討した。その結果,この錯視現象は光点が鼻側網膜に投射され,かつ背景刺激が鼻側方向に動いたときにもっとも大きいことが示された。これは,鼻側網膜が,背景運動を感知して反射的な眼球運動を誘発する皮質下中枢と直接結合していることを示唆していることと関連があると考えられる。 2.次にサッケード眼球運動におけるギャップ効果(周辺刺激へのサッケード潜時が,その刺激を提示する前に,それまで提示されていた注視点を消去することによって短縮される現象)が,サッケードの目標刺激の網膜上位置(鼻側vs.耳側)によって影響を受けるかどうかを調べた。その結果,ギャップ効果は目標刺激が提示される視野の違い(右視野vs.左視野)によってたびたび影響を受けたが,網膜上位置の違いによる効果は認められなかった。
|