本研究では、なぜ出生直後の新生児が母乳および母親への強い選好をもつのかに焦点を当て、その鍵となるものが胎児期の慣れた刺激である羊水から出生後の新規刺激である母乳への速やかな選好の移行にあるのか、その背後にあるのは羊水と母乳の刺激特性を記憶し両者の関係を学習できる能力なのかを、マウスを用いて明らかにすることを目的とした。 まず、妊娠18日のSlc : ICRを帝王切開して胎児を蘇生させた。3時間後の実験では、母親の乳首周辺の体毛で作った体毛ブラシを羊水・母乳・生理食塩水・蒸留水に浸し、においに対する反応と口周辺部への体毛ブラシによる刺激への反応とを記録した。その結果、羊水の刺激効果が最も大きく、母乳の刺激効果はそれよりも劣ることが明らかとなった。なぜ、母乳が大きな効果を持たなかったのかは大きな疑問であった。この実験で用いた母乳が初乳ではなかったことが、この結果をもたらした可能性もある。 そこで、次の実験では、羊水、初乳、分娩後3日目の母乳の効果を比較した。その結果、におい提示効果と口周辺部の刺激効果については、羊水がもっとも大きな効果を持つこと、初乳は羊水と同様の刺激効果を持つが、におい提示に対する反応が羊水に比較して遅いこと、分娩後3日目の母乳の刺激効果は初乳に劣ることが明らかとなった。このことから、刺激効果は羊水、初乳、それ以後の母乳であると結論づけられる。 羊水と母乳の刺激特性の記憶と両者の連合学習の可能性については、羊水と母乳の反復提示実験を行っているが、結論を出すまでには至っておらず、引き続き検討が必要である。
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