本研究は、特別養護老人ホームなどの大規模施設やグループホームのような小規模施設に入居している痴呆高齢者の行動学的特性を、比較行動学的な観察法と行動分析の手法を用いて明らかすることをその目的とする。 昨年度の特別養護老人ホームにおける行動観察に続き、本年度は島原市にあるグループホームにおいて、入居している痴呆高齢者の日常生活行動と他者との社会的相互交渉に関する基礎的な資料を収集した。観察の対象としたのは6名の中等度から重度痴呆の症状を持つ痴呆高齢者であり、すべて女性であった。行動観察にはデジタルビデオカメラを用い、起床時から夕食後、就寝前までの日常的場面を終日録画した。その手続きは両者の比較を可能とするため、昨年度までの特別養護老人ホームにおける手続きと同様とした。なお、いずれの施設においてもビデオ撮影に関する倫理的条件をクリアし、撮影に関する許諾を得て研究を行っている。 他者との相互交渉を中心としてデータを分析したところ、グループホームにおいては特別養護老人ホームと比較して、入居痴呆高齢者に対する他者からの関わりかけや声かけの頻度が高く、痴呆高齢者も比較的多く他者に対して関わりかけ、他者のさまざまな日常行動に対して関心を向けていることが明らかとなった。入居施設の物理的条件に左右されることは否定できないが、グループホームにおける入居者は特別養護老人ホームに入居している対象者と比較して、他者との物理的距離が短く、社会的交流を持ちやすい条件を備えているといえた。さらにグループホームにおける職員と入居者の人数比は特別養護老人ホームにおける職員と入居者との人数比よりも小さく、職員が個々の入居者と交流しやすく、さらに職員が積極的に入居者に対して家事を含む軽活動を要求するグループホームの基本的姿勢が、入居痴呆高齢者と他者との相互作用を促進しているためと考えられた。
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