軽度の痴呆化した高齢者が対人関係場面において、他者の情動理解をどのようにするのかを明らかにするため、対人関係投影法テストを作成した。この対人関係投影法テストは、痴呆化によって衰える「記名力」や「記憶力」を測定するためのテストではなく、対人関係場面における、人の情動理解力を測定するものである。そのために、対人関係場面を描いた図版を11枚作成した。このテストの標準化のため、20代の若者、在宅高齢者、介護老人保健施設入所者を対象にデータを収集し、被験者が投影するであろう情動の種類と内容の標準反応を特定化した。テストの標準化は継続研究となった。さらに、情動理解と情動表出を検討するため施設入所高齢者を対象とした対人交流場面を以下のように構成した。 (1)「動作」法による(リラクセーションを中心とする)相互的関わりを行う場面。 (2)「行為」による(回想法グループ活動において高齢者が回想した場面に基づいたロール・プレイング)相互的関わりを行う場面。 (3)標準的なコミュニケーション場面(動作も行為も積極的には用いない、回想法グループ活動場面、動物や風景の写真を見ながらの会話場面)。 (4)写真刺激による回想法的場面。 以上の結果は、次の通りである。(1)で動作法によって高齢者のうつ状態が減少した。(2)では回想法にロール・プレイングなどの行為化を導入したことで情動理解や情動表出が増加した。(3)では実施前後において、高齢者のテスト反応に変化が見られなかった。(4)では軽度痴呆化状態の高齢者は、「ひまわり」「海」「赤ちゃん」等の写真に対してポジティブな情動反応を示したが、「犬」などのペットになるような動物等には余り示さなかった。
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