Laugh-speakとは「話しながら笑う」現象を指す。本研究はlaugh-speakの生起機序について心理学的に検討することを目的とする。昨年度までの研究によって、laugh-speakの生起は、言葉の「繰り返し」「言い淀み」「引用・再現」といった発話形式と関連することが明らかになった。また、その機能的側面については、Poyatos(1993)が指摘するように、発話内容を何らかの形で修辞する準言語(paralanguage)としての役割を果たしていると考えられるが、修辞の方向性およびその内容は非常に多岐にわたり単純に類型化できな様相を呈している。文脈から推測される主な機能を挙げると、まず、「打ち消し」「緩和」「強調」「誇張」「対比」といった発話内容の強度的側面への修辞がある。さらに、「同意」「謙遜」「含羞」「困惑」「弁明」「不満」「批判」「自潮」「皮肉」「矛盾」といった発話内容に対する話者の態度や感情的側面への修辞が推測される。 今年度の研究では、laugh-speakを日常生活の中で観察し、これまで主として面接などのフォーマルな場面で観察されたlaugh-speakの特徴と比較検討することにした。観察場面として、飲食店(バー)を選択し、許可を得て、マスターと客および客同士の会話の様子をビデオカメラで収録した。この収録内容を会話分析の際に作成される詳細なトランスクリプションとして再現し、これを分析対象とした。これまでの分析によって、laugh-speakは形式的側面においては、言葉の「繰り返し」において生起すること、機能的側面においては、発話内容に対する話者の態度や感情面(「不本意」「躊躇」「緊張緩和」など)での修辞が見て取れた。これらは、基本的にはこれまでフォーマルな場面で観察されたlaugh-speakの特徴をなぞるものであり、laugh-speakはフォーマルな場面に限らず様々な会話場面において生じる普遍的現象であることが確認された。
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