幼児期におけるカテゴリー概念はスキーマ的概念から分類学的概念に移行するのではなく、いずれもが利用可能で、それらを課題の文脈に応じて柔軟に切り替えて使用しうるという仮説の基に実験的研究を行った。 一連の実験において、課題の文脈を変える変数のひとつとして教示を取り上げた。標的刺激と主題的関係にある刺激も分類学的関係にある刺激も選択可能な見本照合課題を実施し、刺激選択に対する教示の効果を調べた。 実験Iでは、3歳児、4歳児、5歳児各クラスの幼児に標的刺激と「同じ仲間」の選択を求める仲間教示、「一緒のもの」の選択を求める一緒教示、「合うもの」の選択を求める適合教示のいずれかが与えられた。年齢クラスにかかわりなく、教示により選択される刺激に差がみられた。仲間教示と一緒教示ではもっぱら分類学的選択刺激が選ばれ、適合教示では仲間教示や一緒教示に比べると主題的選択刺激がより多く選択され、上記の仮説を支持しうるような結果が得られた。 実験IIでは、実験Iで被験者間変数とされた教示を被験者内変数とし、同じ幼児に一緒教示下での見本照合課題と適合教示下での同課題とが実施された。年少の3歳児クラスでは、教示だけでなく教示順序、検査セット実施順序、分類学的課題の種類といったすべての実験要因が刺激選択にかかわるような込み入った結果が示された。これに対して、年長の5歳児クラスでは、所与の教示によって刺激選択を切り替えていることを示唆する結果が得られた。 つづく実験IIIでは、成人を対象に実験IIと同様の実験が行われた。成人では、幼児に比べると、教示の変化に応じて刺激の選択の仕方を変える傾向がはるかに顕著な形で示された。 一連の実験で幼児はスキーマ的な概念も分類学的な概念も利用可能であり、文脈に応じて利用概念が変わることが示された。しかし、文脈に応じて主体的かつ柔軟に利用する概念を変えるという点では発達的な差異が示唆された。
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