研究概要 |
本年度は、これまでの研究成果を踏まえ、さらに研究を深化させるべく、いくつかの実験を行い、前年度までの研究成果を含めて、研究成果の総括を行った。 共有のジレンマ問題については、チキンゲーム構造における利得条件を全員が「独占」選択肢を選んだ場合の損失がゼロの場合と-1,500円の場合に設定し、割引率を比較したところ、明らかに、-1,500円条件では割引率が小さくなること、すなわち最悪の結果を避けるため、「独占」選択肢よりも「共有」選択肢を選ぶ割合が増加することが示された。この事実は、被験者がゲーム構造とともに利得条件にも敏感であることを示唆している。セルフコントロール問題では、目先の小さい利得の選択肢を選び続けることで最終的な利得を最大化できるか否かを、1セッションの試行数を20試行とすることで検討した。この結果、最大化方略(目先の小さな利得の選択肢をとり続けること)を学習できた被験者とできなかった被験者に分かれることが示された。このことは、最適化方略の学習には試行数が不足していた可能性もあり、さらに方法論的検討の必要性を示唆している。 これまでに得られた結果から、さらなる方法論的検討は必要ではあるが、報酬の価値割引の現象を手がかりに、セルフコントロールと社会的ジレンマの問題を同一の基盤上に位置づけて検討できる方法論を確立できたといえる。このような方法から得られた知見は、いずれの問題においても、目先の小さな報酬の価値を小さくすること、言い換えれば、将来の大きな報酬の価値の割引率を小さくすることが重要であることを示している。
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