研究概要 |
本研究は,ヒトや動物(ラットとハト)を用いて,セルフコントロールと社会的ジレンマの問題を報酬の価値割引の観点から統一的に理解しようとした試みである.セルフコントロールの問題では,セルフコントロールの習得を見るために,利得の小さい選択肢を選び続けることで,1セッション終了時の総利得を増加させることができる新しい選択手続きと遅延時間による報酬の価値割引を調べるために,前試行の選択結果により次試行の選択肢の内容が変化する手続きを考案して,両者の結果の相関を調べた.この結果,セルフコントロール選択の学習と割引率の間には負の相関が認められた.社会的ジレンマの問題では,共有のジレンマと呼ぶべき,他者と金銭報酬を共有する場合と自分で独占する場合の選択を行う新しい実験手続きを考案し,「共有」と「独占」の選択とともに,他者との共有による金銭報酬の価値割引を調べた.ジレンマ状況として,チキンゲームを用い,利得条件を全員が「独占」選択肢を選んだ場合の損失がゼロの場合と-1,500円の場合に設定し,割引率を比較した.その結果,-1,500円条件では割引率が小さくなることが示された.この事実は,被験者がゲーム構造とともに利得条件にも敏感であることを示唆している. これまでに得られた結果から,報酬の価値割引の現象を手がかりに,セルフコントロールと社会的ジレンマの問題を同一の基盤上に位置づけて検討できる方法論を確立できたといえる.このような方法から得られた知見は,いずれの問題においても,目先の小さな報酬の価値を小さくすること,言い換えれば,将来の大きな報酬の価値の割引率を小さくすることが重要であることを示している.
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