研究概要 |
目は心の窓といわれるように,目の動きから心理過程を推測しようとする試みは古くから行われてきており,人との対面場面では目にもっとも注意がいく.本研究では,目の動きの中でも特にまばたき(瞬目)に注目する.なぜなら瞬目は目を保護するために生じるだけでなく,心的な情報処理過程と関連しているからである. これまで筆者は情報処理課題中の瞬目を,瞬目時間分布として表すという視点から研究に取り組んできた.すなわち,瞬目がどの時点に集中して発生し,どの時点で抑制されているかを瞬目発生の時間的な分布として表すものである.それらの瞬目発生の様子を自動的に解析するシステムを開発した結果(平成6〜8年度科学研究費補助金),処理中は瞬目が抑制され,処理終了後に頻発することがわかった.このことから選択的な注意時においては,さまざまな処理活動が行われるので,選択的注意が行われているとき瞬目発生は処理の開始と終了にともなった変動を示すはずである. 本研究の目的は選択的注意中の瞬目変化を明らかにすることである,そのために二重モダリティ呈示法を考え出した.これは視覚・音声刺激の提示中に一方のモダリティに注意を向けさせ,もう一方には注意を向けさせない方法である.その結果,注意の向いていない音声刺激の後では瞬目率ピークがなくなったが,注意の向いていない視覚刺激の後では瞬目率ピークが発生した(実験I・II).注意の向いていない音声刺激に埋め込まれた選択的注意刺激の後では瞬目は抑制された(実験III).注意の向いていない視覚刺激に埋め込まれた選択的注意刺激の後では瞬目率ピークの後も瞬目が発生し続けた(実験IV).注意の向いていない空間刺激の後では瞬目率ピークはなくなった(実験V).このことから,注意と瞬目との関係について明らかにできただけでなく,さまざまな方面,たとえば「虚偽検出課題」「自動車運転場面」などへの応用が可能であることが示唆された.
|