名詞はすでに環境から切り出された事物を指示するものなのであるが、動詞の場合には切れ目のない連続的な一連の行為を分節し、単語に対応づけ、さらにそれを他の行為の事例に般用するという、名詞の場合よりもいっそう抽象度の高いプロセスが要求される、本研究課題においては、幼児の動詞の語意推論メカニズムを明らかにするための第1歩として、幼児がアクター、アクション、オブジェクトの3要素で構成されるアクションイベントに対して新奇な名詞、あるいは動詞が付与された場合、子どもがイベントのどの要素に名詞あるいは動詞をマッピングし、さらにどのような基準で般用を行っているのかを調べた。 幼児は少なくとも3歳になるまでには「ている」という形態素からの手がかりのみで動詞と名詞を区別できる。また、動詞は行為を指示し、名詞は事物を指示すること、動詞も名詞と同様、直接ラベル付けられた事例以外の他の事例に般用できることなどを理解していることがわかった。しかし、名詞の場合には3歳児でも事物のみに注目し、事物が用いられる動作を無視して般用することができたのに比して、動詞の場合にはアクションに用いられたオブジェクトが変わってしまうと同じアクションにも動詞を般用することができなかった。しかし、オブジェクトとアクションが同じで行為者のみが変わったイベントには動詞を般用することができた。このことから、動詞の学習(語意推論)は名詞の学習よりも困難で、特に年少の子供は、アクション自体は事物から分離して記憶できるにもかかわらず、動詞の意味と変数となる項を分離することが難しいとの知見を得た。続く実験では事物の類似性や既知度が、事物を動詞の意味から分離することに貢献し、子どもを動詞の語意理解にブートストラップするとの知見を得た。
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