これまでの心理学的研究では、身体動作はこころの従属変数でしかなかったことに注目し、動作を独立変数とする研究(身体心理学)の意義と必要性についてレビューを行った。そして、身体動作や姿勢、呼吸などが感情や認知などの心的現象に与える機能に関する研究を紹介した。最後に、身体心理学の将来的な展望を行った。(以上は、著書「身体心理学の探究」(川島書店)の概要。) 実験研究では、以下のことを行った。(1)抑うつ感と関連性が見られた、手を左右に反復開閉する動作のカオス性に関する検討。抑うつ感が高い被験者の動作は、秩序が低下し、カオス性が高まっていることが明らかとなった。(2)手を左右に反復開閉する動作の速度を操作した場合の気分状態の変化についての検討。動作をゆっくりと行うことは、抑うつ感などの気分状態を改善させることが明らかとなった。(3)屈伸呼吸法の生理・心理的効果に関する研究。屈伸呼吸法は、生理的・心理的にポジティブな効果があることが示唆された。特に、ゆっくりと屈伸呼吸法を行うことはいくつかの心理指標でポジティブな効果が認められた。(4)身体動揺と不安との関連性についての研究。不安感情の増加に伴い、身体動揺は増加することが確認されたが、この場合に、不安の高低によって身体動揺の質的側面に違いが見られた。 学会のワークショップでは、身体心理学の意義について数名の研究者と共に講演を行った。また、心理学における複雑系研究の意義についても講演を行った。ここでは、行動や生理変数のカオス性と健康の問題、カウンセリングに複雑系研究のパラダイムを応用導入することなどの新しい視点に基づいた研究の方法論が紹介された。
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