前年度に引き続き、埼玉県内の知的障害者援護施設の利用者に協力を得て、友人関係概念(Friendship Conception)の発達に関する3種類の聞き取り検査を実施した。聞き取りは、発達年齢3歳台以上の者(K式発達検査による)10名にしたが、有効な回答は9名から得られた。この聞き取り検査の内容と結果の概略については、以下のとおり。(1)友人関係における葛藤場面を含む物語を聞かせて質問するという平良洋子(1985)の方法を、青年期の知的障害者に判り易くアレンジしたFCテストを実施した。その結果、20歳台前半までの者は発達年齢のいかんにかかわらずFCレベルが低いが、20歳台後半になると相対的に高いFCレベルの獲得が確認され、前年度に明らかにした自己認知・対人認知における諸結果にいう「生活年齢効果」とほぼ同様の傾向が認められた。領域別では、「親密」が低く、「葛藤とその解決」が高い。(2)生活場面において親密な特定の人物を回答してもらい、その人物に関する親密性のレベルを形成・親密・信頼・嫉妬・葛藤・終結の6点において質問し、聞き取りを実施した。その結果、形成・親密・信頼の3領域において獲得レベルが高い傾向にあり、嫉妬・葛藤・終結の3領域に著しい低さが認められる。ない養生の特徴としては、前者3領域において年上で身の回りの世話をみてくれるような依存可能な人物が特定されている場合が多いこと、後者3領域においては、喧嘩にたいして即「ゴメン」と誤ってしまうような葛藤回避傾向の強さが示された。これらの諸結果は、青年期以降に培われた知的障害者の「生活の知恵」的な性質であることも推測できる。(3)労働場面における親密性のレベルを前述した生活場面と同様の方法で聞き取りを実施した。全体に、親密性の獲得レベルは生活場面よりも低いこと、信頼領域においての格差が著しく、信頼領域にレベルの高さのある者は、FCテストにおいてもレベルの高かった生活年齢の高い者であった。労働場面にいては、対人関係が物との間柄に閉じられた傾向の強いことが示された。
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