研究概要 |
本年度は,個人道徳場面において道徳的義務感と自己決定意識をどのように発達させるのかを明らかにするために,小学生(11歳児209名),中学生(225名),大学生(258名)および社会人(30代と50代125名)を対象にした3種類の調査を行った。その概要は次のとおりである。 1.小学生は趣味と友人の選択場面で自己決定意識を発揮した。中学生はこれらに加えて,自己の健康管理,宿題場面においても,高い自己決定意識を持っていた。家庭での手伝い,おこづかいの使い方,地域での思いやり行動については,小中学生とも,自己決定意識を持つ者と義務感を強く持つ者に分かれた。 2.大学生は親よりも趣味,友人選択,自己の健康管理を自己決定できると判断した。大学生と親の判断に開きがあるほど,大学生の意識する適応状態はよくなかった。特に,親子の差異と抑うつ傾向が有意な関連を示した。 3.大学生は家族と自己の要求が異なる場面で,自己の要求を優先させることを重視していた。この傾向は女性の方が優位に強かった。30代の既婚男女においても認められ,女性の場合,有職者であるか否かに関係なく認められた。さらに,50代の既婚男女においても認められた。 今年度の調査から,家族や身近な社会(仲間関係,学級集団など)の中での向社会的場面(思いやりや気づかいが求められる場面)と,自己を向上させる必要のある場面(勉学など)で,どの程度義務感を持つかに個人差が表れることがわかった。来年度は高校生のデータを加え,個人道徳に関する幅広いデータを集める。最終年度であるため,3年間の調査結果を整理し,生き方としての道徳発達の理論化を試みる。
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