研究概要 |
本年度は,個人道徳場面において道徳的義務感と自己決定観の発達環境を探ることを目的とした調査研究を行った。幼児の両親160名を対象にした集団調査と,34名の母親と幼児を対象にした面接調査,大学生153名とその両親を対象にした調査研究を行った。その概要は次のとおりである。 1.幼児の親(30歳代)は夫婦関係を互いに独立した主体とみなす「夫婦独立型」と夫(男性)の主体のみを認める「夫独立型」に分かれる。夫独立型は伝統的性役割感と母性愛感が強く,男女及び夫婦に階層的な関係を持ち込む傾向が強かった。また,夫婦独立型の親は子どもの身体的な自己管理場面において夫独立型の親よりも有意に厳しいかかわり方をしていた。 2.個別調査の結果,夫婦独立型の母親をもつ幼児は,より明確な道徳的概念をもつ傾向にあった。また,遊び場面において,「個人の自由」を理由にすることが有意に多くなる傾向が認められた。集団調査と同様,親の夫婦関係の概念という親の自己決定観が子どもの発達環境の一部であることがわかった。 3.大学生と親は礼儀作法,身体的な管理,友人関係,学習場面の判断において大きく異なっていた。これらの場面では,大学生の方が自己決定権を強く発揮していた。親の判断のパターンから親を「規律型」「寛容型」「放任型」に分けることができた。規律型の親をもつ大学生は礼儀作法,身体の管理場面で有意に強く自己規制をしていた。また,放任型の親をもつ大学生はUPIで測定された適応が最も悪かった。親の道徳観は子どものそれの発達環境であると同時に,適応を左右するものであることが示唆された。 3年間の実証的研究から,家族関係における義務感と自己決定権の発達過程,及びそれと関連する要因,さらにその発達に寄与する親の要因を明らかにすることができた。認識論としての道徳発達理論・研究を超えて,日常の文脈における生き方としての道徳発達を理論化する資料を得ることができた。
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