研究概要 |
日本人の黒人に対する「人種」ステレオタイプを明らかにするために、絵本「ちびくろさんぼ」の挿絵を刺激材料に用いて実験を行った。大学生と社会人を対象に行った実験の結果、黒人に対する「人種」ステレオタイプは、今でも多くの日本人の間で、保持されていることが示唆された。次の特徴、すなわち、分厚く真っ赤な唇、ちぢれた髪、まん丸く見開かれた目、漆黒の肌、裸、といった特徴を持つ「ちびくろさんぼ」は、6割以上の実験参加者からユーモアがあり、親しみがあり、おもしろい対象として認知された。しかし、同時に上記の「ちびくろさんぼ」は、非文化的で、非知的で、間の抜けた対象として有意に多くの回答者から否定的に認知されていることが明らかになった(Asian Association of Social Psychology Annual Conference 2001,p.304)。 また、日本人の西洋人と黒人に対する「人種」ステレオタイプの形成過程を、心理-歴史的視点から明らかにするために、鎖国前後(1500年-1800年頃まで)の西洋人と黒人に関する記録、資料を分析し整理した。その結果、西洋人は主に貿易商人、宣教師として日本に渡航してくることが多かった。彼らは、日本の文化に合わない行動をすることが多く、"野蛮な振る舞いをする人"として見られる傾向があった。鎖国中も長崎の出島を通じて外国との接触は細々と維持されたが、同様の西洋人観を種々の記録から読みとることができた。黒人については、長崎の丸山遊女に関する記録などから、奴隷であり、下等な人間として受けとめられ、蔑視されていたことが明らかになった。 以上の結果から、西洋人に対する尊敬、憧憬は近代以前の日本人には明確には認められないが、黒人に対する劣等視、蔑視は、当時の西洋人の黒人観をとり入れる形で1500年代にはすでに一部の日本人の中に形成されつつあったといえよう(埼玉大学紀要教育学部,2002,掲載予定)。
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